ある定時制高校の掲示板に二十六名の進級不合格者の名前が発表された。学校側の発表に怒った彼等は職員室になだれ込み自分達に加えられた差別待遇に対する不満をぶちまけた。彼等はごんたくれと呼ばれる手のつけられないわんぱく者であったがヤクザでもなければ愚連隊でもなかった。翌日の職員会議で全員退学処分に結論が落着きかかった時、綾部由紀子と滝大介の両教師から反論が出され、特に大介の熱望により、彼等ごんたくれを全員一クラスに集め、落第生教室を編成することになった。この処置に対してごんたくれは、ますます反抗の気構えを見せ、授業はそっちのけで、教室は賭博場と化した。かつては自分もごんたくれと呼ばれていた大介もなす術なくただ茫然とするばかりであった。翌日は出席者ゼロ、大介はやりきれない気持を酒にまぎらせ、夜の場末を歩くうち、ごんたくれ達のボス選出の場に出っくわした。五十米はあろう煙突の頂上に登った者が勝つことになっていた。大介は彼等と肌で親しくなる絶好の機会とばかり、学校に出席することを約束させると煙突に挑戦した。翌日生徒は全員出席したものの、勉強する態度はひとかけらも見えなかった。連日連夜の職員会議、家庭訪問、職場訪問も何の効果もなく、大介が近づけば近づく程、離れていった。彼等ごんたくれの家は極度に貧しかったが、日中汗を流して働く彼等はたくましかった。その忙しさにおしつぶされて、若い心のエネルギー発散の場所を奪われていた彼等は、学校へ知識を求めるよりはむしろ友人と会い、スポーツに興じ相談相手を求めに来ていたのである。大介にとって教師としての信用を回復することが急務であった。その日から、大介の忍耐強い働きが始まった。ひたむきな彼との接触を通じて、生徒たちも次第に大介に親しみを見せるようになり、相談を持ちかけてくるほどになった。やがて、三月になった時、この「落第生教室」の生徒たちは全員卒業することができたのである。
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