御牢奉行石出帯刀は、見廻り中、重罪を負って入牢させられた若い囚人三枝喬之助を一目見るなり、本当の罪人ではないと睨んだ。喬之助は、旗本都築三之助の用人であったが、去年から三之助の妻さきと情を通じ、本年正月十日主人を殺害してさきと逐電し、合意の上九段牛が淵に投身した--吟味書にはこうかかれてあった。さきは死んだが喬之助は救い上げられたのだ。帯刀は喬之助の無実を証明しようとして、差入れに来た仲間伝七や奥向きの腰元に問いただした。--三之助は疳性で、忠実な用人の喬之助に理不尽な当り方をし、同じ旗本の乾専十郎などと吉原へ入りびたりの生活をしていた。そして喬之助とさきに不義密通の言いがかりをつけて喬之助を手討にしようとし、果ては一人吉原へ出かけた。夫に信じて貰えぬさきは絶望のあまり自害しようとして、飛びこんで来た喬之助にとめられたが、何時の間にか帰って来た三之助...
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