山陰地方では、園田家と云えば、山園田と云われるほど名の通った、広大な森林と山を持つ大地主だった。その一人息子・順吉は山番の娘・小雪を愛していた。京都の大学の休暇で帰省したとき、そのことで父惣兵衛と激しく口論した。父は町の実業家の令嬢・美保子との結婚を強いるのだ。順吉には山園田のすべての富よりも小雪一人の方がかけがえなかった。彼には味方がいた。小学校教員の大谷や銀行員のマサなど彼のやっている読書会の連中である。彼が京都に帰ると、惣兵衛の命で、小雪は因果をふくめられ、他国の親戚にあずけられた。順吉が小雪にあいに帰って来、そのことを知った。彼は家出した。宍道湖のほとりの経師屋の二階が、彼らの愛の巣になった。順吉は肥くみ作業員、材木運びなどをして働いたのだ。が、二人は幸せだった。しかし、外の世界では戦争が進み順吉にも召集令状が来た。彼は勘当の身のまま戦地へ向...
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