世界レーヨンの文書課員、伊夫伎亮吉は突然会社を辞め、“トラブルコンサルタント”を開設した。一生サラリーマンで終りたくない、といって資本家にはなれないから悪党になる以外ない。彼は法律の抜け道に目をつけた。その頃世界レーヨンは新しい化学繊維ポリレンを大々的に発表した。頃はよしと伊夫伎はレーヨンの石神常務を訪ね、ポリレンの商標権は彼によって登録されていると言い放った。傲慢な石神も、すでに数億を使って発売に踏切った現在、商標の変更は考えられず、二千万円で買取るしかなかった。伊夫伎の成功の裏にはレーヨンの秘書小泉かおるの手引があったからだ。かおるは伊夫伎を愛していたために彼に従ってきたが、彼が次第に非人間的になっていく姿に耐えられず、会社を辞めてしまった。伊夫伎は次の情報員にデザイン課の一井鮎子を選んだ。伊夫伎が鮎子のために店を出してやった時から、レーヨンの情報は彼のものになった。そして世界レーヨンの決定した春のモードは忽ち競争相手の極東化繊が先に発表してしまった。レーヨンの新工場建設用地の富士山麓にも伊夫伎は手を延ばしていた。地団駄を踏んだ石神は、かおるの愛情を利用して伊夫伎を恐喝罪で告訴した。事態はかおるの思惑と違って伊夫伎は逮捕された。しかし彼は獄中から弁護士清原を通じて、ポリレンの染色技術がイタリアのゼノア社の特許に抵触することを知った。石神は伊夫伎のような一匹狼の横行を恐れて遂に極東化繊と手を握り、ポリレンの販売に力を注入することにした。そのコンビナート結成祝賀会の席上、得意絶頂にある石神の前に現れた伊夫伎と清原は、ゼノア社の委任によりポリレンを告発する旨を通告した。翌日の新聞は石神の退陣と伊夫伎の渡欧を伝えていた。勝利を得たが伊夫伎の心は空虚だった。その心を救えるのはかおるの愛情しかない。
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