ルポライター戸田の真子に対する取材は二週間を過ぎようとしていた。初めはこの小生意気な二十歳の少女に全く興味を示さなかった戸田だが、次第に、自信に満ちた真子の生き方に興味を覚えていった。それは、戸田の安保闘争にすごしたあの若々しい青春時代の自分自身を見るようだった。かつて、その学生運動の中で阿梨子と恋をして、闘った。だが気が付いた時には、運動の失敗と、事故のための阿梨子の失明という敗北感だけが残っていた。戸田と阿梨子にとっての現在は素晴らしい青春を持ったという過去の思い出に侵るだけだった。一方、真子は、恋人の片桐や家族など彼女を取りまく全てのものが虚しく感じられた時、戸田の中へ身を委ねた。戸田にとってこの愛は十年前の敗北を癒すかのように燃えた。だが、真子は阿梨子を見た時、過去に生きる女への親しみを感じた。それは真子と戸田の別れをも意味していた。一方、片桐が真子を戸田に奪われた腹いせに獣のように阿梨子を犯した。しかし、阿梨子は感情のない人形でしかなかった……。翌日、阿梨子の家で、生きることに疲れた戸田と阿梨子の二つの死体が発見された……。
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