スチルマンで、「月曜日のユカ」などのシナリオを書いた斎藤耕一が独立プロを設立、自ら脚本・監督・音楽を担当して作った斎藤プロ第一回作である。 殺し屋ジョーの夢はブラジルへ行くことだった。ファッションモデルで恋人の可奈子を財閥の御曹子三輪に近づけ、うまい就職口にありつこうとしているのは、ともかくも糊口をしのがねばならないからである。それにジョーにしろ、ブラジル行が現実に飽きた自分の夢に過ぎないことを知らないわけでもないのだ。キークラブのマックス・ホールで踊っていた三輪と可奈子が連れだって深夜の街に消えていくのを、ジョーは黙って見送った。翌朝、三輪との情事に疲れ切ってジョーの許に戻ってきた可奈子とジョーの間に、空白な溝が出来たのはいたし方ないなりゆきだったが、二人は心底から愛しあっていたのだ。可奈子が惨めな気持ちで去って行ったあと、マックス・ホールで酒を飲むジョーの目にいつしか涙が浮んでいた。そんなジョーの前に、夫を殺してくれという女が現われた。女はジョーが殺し屋などとは信じていなかったのだが、ジョーはただ自分の欲求から女の夫を殺した。悲鳴をあけて逃げて行く女を見送ったジョーは、死体の傍に立っても何の感動も覚えなかった。警察に追われたジョーは、現場を目撃した浮浪者の老人を連れて逃げ、ある海岸までやってきた。砂に半分埋ったようなコンクリートの廃墟に身を潜めたジョーは、老人が大事にしている紙包みに気がついた。聞くと、生き別れになった娘の晴着だという。だが、問いつめると、老人には娘などいないのだった。ジョーは自分のブラジル行の夢も、老人の晴着のようなものだと思い、この浮浪者が、何よりもその晴着を大切にしている気持ちを理解できた。だが、ジョーは夢を実現させようと決心した。古木や丸太で筏を作り始めたのである。そして、老人が止めるのも聞かず、可奈子に連絡を取った。可奈子はジョーに会える嬉しさで海岸に急いだが、刑事が後をつけているのに気づかなかった。誤解したジョーは可奈子を射ち、警官と拳銃戦を交えたが、老人が射たれてしまった。ジョーは可奈子の死体をかつぎ、筏に乗った。そんなものでブラジルへ行けようはずはなかった。警官が取り囲む砂浜には老人の持っていた美しい晴着が、虚しく捨てられていた。
影视行业信息《免责声明》I 违法和不良信息举报电话:4006018900