記録された風景から新たな風景を発見するための眼差しを提示する、三宅唱による映像インスタレーション。 本作は三宅が2017年8月から2018年4月にかけて山口に滞在している間に、スマートフォンの動画撮影機能のみを使って撮影された日常の映像と、同時期にYCAMのスタッフをはじめとする、プロフェショナルな映画製作者ではない撮影者によって記録された映像とを、三宅唱が編集し、複数スクリーンに構成したものである。 この背景には、三宅が2014年から取り組んでいる『無言日記』と呼ばれる映像日記の存在がある。『無言日記』は、三宅が日々を過ごすなかで出くわした「映画的な瞬間」をスマートフォンを使って記録し、編集した映像日記で、ウェブマガジン「boidマガジン」上で継続的に発表している。スマートフォンの登場と普及により誰でも簡単に映像が撮れる今日、映画と私たちの世界はかつてより近くなった。そうした環境に応答するように、映画作家が、日常の中に小さな驚きを発見し、撮影を通じて積み重ねていくことで、世界をもう一度新しい視点から見つめようとする映画体験、それが『無言日記』である。 三宅はYCAMでの滞在期間中、『無言日記』の制作と並行して、その手法を拡張した映像制作を試行。それは三宅本人ではなく、他の複数の人間が『無言日記』と同様のアプローチで撮影した素材を、三宅が編集するという手法であった。これにより、撮影者の視点でもなく、編集者(三宅)の視点でもない、「誰のものでもない視点」から世界を眺めていくという、『無言日記』とはまた別の、独特の世界への眼差しを持った映像が実現している。 本作に用いられている映像は、このような『無言日記』を取り巻く、三宅と三宅以外の数名の撮影者による映像の数々である。半年以上に渡って撮影された映像は、日常に潜む多種多様で豊かな瞬間を膨大に切り取るとともに、夏から冬、春、そしてまた夏へという時間の移ろいを含み込んでいる。このインスタレーション作品を通じて、すでに失われてしまった風景の記録から、新しい風景を発見し、世界を見つめ直すための新しい視点が体感できる。
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