零下三十度の大雪山の麓にある造材小屋を目指して、秋庭ヤエ子は子供の信夫を背負って歩いている。彼女は木材切り出し作業員たちの飯炊き女として月三千円で雇われたのだ。ヤエ子は坑夫の文次とカヨの生んだ四人兄妹の末っ子として生まれ、炭坑を転々として育った。実は、ヤエ子は文次が出稼ぎに行っている間に出来た子で、母のカヨはそれを苦に自殺し、兄の正雄も後を追って自殺した。ヤエ子の不幸は続き、姉の不注意から下半身に熱湯を浴び、ひん死の大ヤケドをおった。そんな悲惨な幻年時代を送ったヤエ子だが、年頃になると、炭鉱で働く大沢久志と結婚し、子供も生まれた。しかし、そんな幸せも長くは続かず、炭鉱が好景気になると、久志は博奕に溺れるようになる。再び悲惨な生活に戻ったヤエ子は、お腹にいる二人目の子供のことも考え、母子心中を計った。娘を殺して首を吊ろうとするが、お腹の重みで釘が抜け死ねなかった。実子殺しの罪を背負ったヤエ子は、取調べの刑事の言葉に励まされ、二人目の子供、信夫と山に入ったのだ。そこへ、久志が現れ信夫を連れ去ってしまう。心の支えを失い、倒れてしまったヤエ子の所に、父の文次が信夫を連れてやって来ると「お前は俺の子ではない」と、母の自殺の事情を話した。この事実を受けとめたヤエ子は信夫と二人で生きていく勇気が生れた。その日から、男の中で堂々と生きていくヤエ子の姿に、作業員たちの見る目も変った。ヤエ子の新しい人生が始まったのだ。
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